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盛岡地方裁判所 昭和39年(ワ)275号 判決

原告 鈴木トシ

被告 国

訴訟代理人 光広竜夫 外七名

主文

被告は原告に対し、金一、七四七万八〇二四円および内金一、七二九万七三四〇円に対しては昭和三八年四月一日から、内金三万〇一一四円に対しては同年一一月二六日から、内金三万〇一一四円に対しては同三九年四月一九日から、内金六万〇二二八円に対しては同四〇年四月二三日から、内金三万一三二〇円に対しては同年一二月二九日から、内金二万八九〇八円に対しては同四一年一月一三日から、いずれも完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担する。

この判決は、原告が金三〇〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の申立

原告は、主文第一、二項同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二原告の主張

一、請求の原因

(一)  前提となる事情 (1) 原告は、東北地方建設局(以下建設局という)によつて建設省起業一級国道四号線改良工事を施行するにあたり、昭和三六年一二月一日建設局と訴外葛巻財産区代表者葛巻町長遠藤喜兵衛との間で、右道路工事に使用する骨材用原石の採掘を目的として葛巻財産区所有葛巻町第四〇地割五七番の六字戸草沢原野七二六町五畝歩のうち三町一反二畝一〇歩(以下、本件原石山という)の土地使用貸借契約(以下本件土地使用貸借契約という)を締結し、右契約に基づき、訴外株式会社佐川組に請負わせて同年一二月一〇日から同三七年二月二八日まで四〇〇〇トン、同年四月一三日から同年一二月二〇日まで六万九〇〇〇トン合計七万三〇〇〇トンの原石を採掘した。

(2)  建設局が、本件原石山において、原石を採掘するに至つた経緯は、次のとおりである。

すなわち、建設局は、昭和三五年七月から同年一〇月まで、前記改良工事に使用する骨材用原石を探査中であつたが、本件原石山付近が適地と判断されたので、同年一一月初め葛巻町から立入調査の許可を得て、同年一二月末まで現地調査をなし、同年一二月二八日葛巻町長に本件原石山での岩石採取を申入れたが、右申入に対し昭和三六年一月七日葛巻財産区管理会において原則的に同意する旨決議したので、建設局は、同年二月初旬から八月末にかけて、数回、発破、試錐ボーリング等による本格的な現地調査をし、他方、佐川組に請負わせて同年六月から一一月にかけて、国道から原石山に至る約一〇キロの既存道路を原石運搬用自動車の通行路とするため、幅員狭少部分を拡張し、退避所を設けるなどの道路改修工事をし、また、岩手郡岩手町大字御堂第三地割字上屋敷一〇九番地、同一二二番地に敷地造成工事のうえ奥中山砕石篩分工場(以下、本件砕石プラントという)を設置して、同年一二月一日本件土地使用貸借契約を締結し、同年一〇日から本件原石山での採掘を開始するに至つたものである。

(3)  ところが、当時、岩手県工業指導所資源部長であつた訴外橘正衛は、その職務上、建設局による採石の動きをいち早く察知して、昭和三六年六月から七月にかけて、岩手県内の未利用資源の開発という名目で本件原石山付近を調査したが、その際、品質良好と認められるけい岩の露頭を発見し、一方、前記発破、試錐ボーリング等探査跡や、原石運搬用自動車通行路の改修工事が行われていることを認め、けい岩などの採石がこの場でなされていることを確認した。そこで橘は、鉱業権について何等知識を有しない被告に依頼して、鉱業権の設定その他鉱業権の処分について、同人の名義を用いることの承諾を得たうえ同年七月一八日仙台通商産業局長にけい石試掘権設定の出願をし、昭和三七年三月五日本件原石山の一部を含む三万三四〇〇アール(以下、本件鉱区の原区という)にけい石試掘権の設定登録(岩手県岩手郡葛巻町、同県二戸郡一戸町地内、岩手県試掘権登録第一四七六六号。以下、本件鉱業権という)を受けた。橘は、右設定登録を受けるや、同年四月下旬またも本件原石山に出かけ建設局が佐川組により採掘、運搬、砕石の作業を行つていることを現認したが、その際、本件鉱区の原区に含まれていない本件原石山においても採掘が進められていることを知つて、同月二八日その区域を包摂する区域八五七九アールを増加し(以下、本件鉱区の増区という)、同時に、本件鉱区の原区のうち採掘現場と縁遠い区域一万五二四八アールを減少する鉱区変更の出願をなし、同年九月二六日その旨の試掘権変更許可登録を受けた。

(二)  原告の損失 (1) 昭和三八年三月一六日に至つて、訴外北日本鉱業株式会社代表取締役佐藤忍から佐川組に対し、鉱業権を侵害したとの理由によつて原石山での採掘および砕石したけい石を道路工事用骨材として使用することに関し異議ある旨の申入があつた。建設局は右申入によつて採掘ならびに砕石の使用を直ちに中止したが、建設局は、本件原石山にけい石鉱区の設定されたことおよび採掘した原石が法定鉱物たるけい石であることを知らなかつたため、昭和三七年四月一三日から同年一二月二〇日まで採掘したけい石六万九〇〇〇トンのうち二万八〇一三トンを残すのみで、すべて道路工事用骨材として使用済みであつた。ところで、右六万九〇〇〇トンのうち右未使用けい石二万八〇一三トンを含む五万五〇三八トンは、本件鉱区(本件鉱区の原区および鉱区変更後の増区をいう。以下同じ)内から採掘したものであるから、土地からの分離により採掘と同時に被告の所有に帰したものである(鉱業法第八条)。したがつて、未使用けい石二万八〇一三トンはこれを使用できないため、そのうち一二三〇トンは砕石加工し、二万六七八三トンは原石のまま、同年三月末以降本件砕石プラント敷地に放置するの止むなきに至つた。

(2)  そのため、原告は、右未使用けい石の採石作業にトン当り別紙目録(一)記載の費用(生産費および設備費)を費したので前記一二三〇トンの砕石分については金一二二万七五四〇円、同二万六七八三トンの原石分については金一、六〇六万九八〇〇円、以上合計金一、七二九万七三四〇円の損失を受けた。

(三)  被告の悪意による受益 (1) 被告は、前記のとおり鉱業権者として本件けい石鉱区の対象たる土地からの分離により未使用けい石の所有権を取得したが、被告は、これによつて原告が投じた前記生産価格に相当する利益を不当に利得した。

すなわち、右未使用けい石は採掘、運搬、砕石などの改良が加えられ、そのため、原石山に埋蔵されているときに比べれば著しくその交換価値が増加し、もし被告において同等の交換価値を割り出そうとすれば相当の費用を投じて設備を設け、原石の採掘、運搬、砕石等の作業を実施しなければならないから、被告は、原石の費用の負担において当然支出すべかりし費用を免れたものといわなければならない。

しかして、建設局のとつた本件原石山から本件砕石プラントに至る運搬路および本件砕石プラントの設置個所は、一般市場にけい石を商品として搬出、生産する場合にも極めて良好な条件を有しているから、被告において事業するとしても当然選定する場所であつて、被告が支出を免れた費用が、建設局の前記生産価格に概ね合致するということができる。

(2)  ところで、被告の右利得は、前記本件試掘権設定、同変更登録の経緯によつて明らかなように、本件鉱区およびけい石について包括的代理権を有する橘がけい石の交換価値の増大を図るため建設局による採掘、砕石の作業を利用する目的をもつてこれを差止めることなく放置し、もつて本件鉱区の設定および採掘原石が法定鉱物たるけい石であることを知らない建設局をして、鉱業権の目的たるけい石の採掘、砕石のための莫大な費用を投ぜしめた結果によるものである。

しかして、代理人橘の右利用行為は、改良行為として代理権の範囲に属するものであるから、本人である被告は、民法七〇四条の悪意の利得者といわなければならない。

(四)  保管の費用

建設局は、未使用けい石二万八〇一三トンが被告の所有であることを知つた昭和三八年三月末の直後である同年四月一日以降、右けい石を本件砕石プラント敷地内に保管して占有し、そのため同日以降昭和四一年一二月三日まで、右けい石の保管に別紙目録(二)記載のとおり合計金一八万〇六八四円の費用を要した。建設局は、右保管にかかるけい石に関し、不当利得返還請求権を有するから、右保管の費用は留置物保管のための必要費である。

(五)  よつて、被告は、未使用けい石について原告が投じた費用に相当するけい石の生産価格合計金一、七二九万七三四〇円を不当に利得したのでその償還義務があり、また留置物保管のための必要費合計金一八万〇六八四円を償還すべき義務を負うから、原告は被告に対し、合計金一、七四七万八〇二四円、およびけい石の生産費と設備費の合計額に相当する金一、七二九万七三四〇円に対しては右けい石が被告所有であることを建設局が知つた昭和三八年三月末の直後である同年四月一日から、うち留置物保管の費用については、別紙目録(二)保管費用額欄記載の金額につき、それぞれ同目録支払年月日欄記載の日の翌日から完済まで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、抗弁に対する認否

抗弁事実はすべて否認する。建設局が、本件原石山を葛巻財産区から借り受け正当な権限に基づいて採掘、砕石を行なつていたところ、建設局の知らない間に本件鉱区が、設定されたことは前記のとおりであり、また、建設局の職員が、本件鉱区の設定および採掘にかかる原石が法定鉱物たるけい石であることを知らなかつたことに過失はない。むしろ、被告は、代理人橘によつて建設局の採掘、砕石の作業を利用し、自らが負担すべき費用を免れようとして右の作業を差止めず、鉱業権侵害の結果を惹起せしめたものであるから、建設局の行為は公序良俗に反しない。

第三被告の主張

一、請求の原因に対する認否

(一)  (一)の(1) の事実は認める。同(2) の事実は不知。同(三)のうち本件鉱業権設定登録の出願およびその登録ならびに鉱区変更登録の出願およびその登録の日時、本件鉱業権の登録番号、面積は認め、その余の事実は否認する。

(二)  (二)の(1) のうち建設局は、本件鉱区の設定および採掘原石がけい石であることを知つたのは、原告主張の異議申入によつてであるとの点および六万九〇〇〇トンのうち五万五〇三八トンを除く一万三九六二トンは、本件鉱区外から採掘したとの点は否認し、その余の事実は認める。

本件土地使用貸借契約は、昭和三六年七月一八日付被告の本件鉱業権設定の出願に基づき仙台通商産業局長から葛巻町長に対し、右鉱業権設定に関して公益上支障がないか否かの照会がなされ、これに対し同町長から支障がない旨の回答がなされた後である同年一二月一日に締結されている。しかも、七万三〇〇〇トンにもおよぶ尨大且つ大規模な採掘が目的とされているのに採石料が無償であることは、本件土地使用貸借契約の当事者間において本件原石山に近い将来けい石鉱区が設定されることを知つていたからにほかならない。

同(2) のうち、生産価格の点は不知、建設局が損失を受けたことは否認する。

(三)  (三)の(1) 、(2) の事実はすべて否認する。

(四)  (四)のうち、建設局が、未使用けい石二万八〇一三トンを本件砕石プラント敷地に保管し、占有していることは認める。

その点は否認する。

二、抗弁

仮に、被告が利得したとしても、建設局は、本件鉱業権の設定ならびに採掘原石がけい石であることを知りながら採掘することによつて被告の鉱業権を侵害したものであり、また、原告が支出したと称する費用は、鉱業法第一九一条に違反した行為の目的達成のために支出したものであるから、公序良俗に反し、民法七〇八条によつて被告は右の費用の返還義務を負わない。

第四証拠〈省略〉

理由

一、成立に争いのない甲第五、第六号証、第一一、第一二号証、第一四、第一五号証の各一、二、第四九号証、第五二、第五三号証、第六一号証の一ないし三、第六二号証、第六四号証の一、同二の一ないし三二、同三の一ないし四、第六九号証、第七八号証、証人佐藤寿夫の証言によつて成立を認める甲第二号証の一ないし三、右第二号証の一によつて成立を認める甲第三号証、証人瀬川時雄の証言によつて成立を認める甲第六三号証の一ないし一四、成立に争いのない甲第六七号証によつて成立を認める甲第六六号証、証人佐藤寿夫、同木谷正、同瀬川時雄、同橘正衛、同横屋正男の各証言および検証の結果ならびに当事者間に争いのない事実を総合すると、次の事実が認められる。

建設局は、道路整備五ケ年計画に基づく一級国道四号線改良工事に使用するため、昭和三五年夏ごろから骨材用原石の探索を始めていたが、本件原石山を適地と判断し、昭和三六年二月初めごろから八月末にかけて数度、発破、試錐ボーリング、横穴掘さく等本件原石山の本格的調査を行い、これと併行して同年六月ごろから、佐川組に請負わせて原石運搬用貨物自動車通行に使用する既存道路の改修工事を行つていた。ところが、同年七月ごろ、当時、岩手県工業指導所資源部長であつた橘正衛は、その職務上本件原石山付近においてけい石を採掘する動きがあることを察知し、その職責である未利用資源の開発という名目で、本件原石山周辺の調査に出かけ、その付近の道路沿いにけい石の露出があることを発見したが、その際、建設局による前記原石山調査跡や、道路改修工事が進められていることを目撃した。そこで、橘は、鉱業権について何等知識を有しない一般家庭の主婦にすぎない被告に依頼して、鉱業権設定登録に被告名義を用いることの承諾を得、もつて鉱業権の設定、処分等に関する包括的な権限を得て、同年七月一八日、本件鉱業権(試掘権)設定登録の出願をした。

仙台通商産業局長は、右出願を受けて、同年一〇月四日、岩手県知事を通じて葛巻町長に対し、本件鉱査権設定に関して公益上支障がないか否か照会したが、建設局は、右設定登録の出願がなされたことを知らされないまま、同年一二月一日、訴外葛巻財産区代表者葛巻町長遠藤喜兵衛との間で、骨材用原石の採掘を目的とする本件土地使用貸借契約を締結した。右契約において採石料を無償としたのは、地元市町村が永年にわたつて国に要望してきた国道四号線の改良工事に協力せんがためであり、また国道から原石山に至る間の道路が良くなるので該当地区の開発に貢献するという考えによるものである。ついで、建設局は佐川組に請負わせて同月一〇日から本件原石山において採掘を開始するに至つた。

本件鉱業権は、その翌年の昭和三七年三月五日に設定登録を受けた。橘は、同年四月二〇日ごろ、再び本件原石山に出かけ、建設局が佐川組によつて本件原石山で採掘し、これを本件砕石プラントに運搬のうえ砕石していることを現認したが、その際、採掘現場が先に設定した鉱区外(増区)におよんでいることを知つて、同月二八日、右鉱区外にある採掘現場を包摂するため先に設定した鉱区を増加し、採掘現場と縁遠い部分の鉱区を減少する鉱区変更の出願をし、同年九月二六日その許可登録を受けた。橘は、同年一一月二日にも、本件原石山を調査して採石作業を現認している。

なお、橘は、訴外北日本鉱業株式会社に本件鉱業権を譲渡し、同年一二月二七日、右会社と被告を共同鉱業権者とする旨の変更登録を受けた。

ところで、建設局は、本件原石山から昭和三六年一二月一〇日に採掘を始めてから同三七年二月二八日まで四〇〇〇トン、同年四月一三日から同年一二月二〇日まで六万九〇〇〇トン、合計七万三〇〇〇トンのけい石を骨材用原石として採掘したが、昭和三八年三月一六日、佐川組に対し、前記訴外会社代表取締役佐藤忍から採掘、採石使用の中止の申入れを受けたため、建設局は、採掘および砕石の使用を中止し、前記採掘したけい石のうち、未だ使用していなかつた二万八〇一三トン(以下、未使用けい石という)は、そのうち一二三〇トンを砕石し、二万六七八三トンを原石のまま、本件砕石プラントに占有保管している。

右未使用けい石は、本件鉱区内から採掘したものである。

以上の事実を認めることができ、前掲甲第五二号証、証人橘正衛の証言のうち右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を覆するにたりる証拠はない。

二、右事実によれば、建設局が本件原石山において採掘し、これを本件砕石プラントに運搬し、砕石加工して本件砕石プラントに占有保管中の未使用けい石二万八〇一三トンは、本件鉱区内から採掘したものであるから、右けい石の土地からの分離により採掘と同時に当然鉱業権者である被告の所有に帰し(鉱業法八条参照)、その結果、建設局は、未使用けい石を使用できないため、未使用けい石の採掘、運搬、砕石のために投じた費用について損失を蒙つたものということができ、一方被告は、建設局の右損失において、本件原石山に埋没しているときに比べればより交換価値の増大したけい石を所有することになり、また、試掘権者として当然負担すべかりし費用を免れ、結局、建設局の受けた損失と同額の右増加価値ないし被告が本来負担すべきであつた費用相当額を利得したということができる。

しかして、建設局が右未使用けい石について投じた費用は〈証拠省略〉によれば、別紙目録(一)記載のとおりであることが認められる。すなわち、建設局の損失は、右目録記載の諸費用の合計金一、七二九万七三四〇円相当であり、被告はこれと同額の利得を得たというべきである。そして、被告の右利得と原告の損失との間には因果関係があるということができる。

三、そこで被告の右利得につき法律上の原因がないかどうかの点について判断する。

前記認定の事実に照らすと、被告の包括的代理人である橘は、建設局が佐川組によつて本件鉱区内から、けい石を採掘していることを知りながら、鉱業権設定の事実を知らせる等容易に採掘を差止めるために必要な処置をとり得たのに一年近くも放置していたのであるのに反し、建設局が本件鉱区内から法定鉱物たるけい石を採掘した行為は客観的には鉱業権の侵害ではあるけれども、建設局において、本件鉱業権が設定されたこと、採掘した骨材用原石が法定鉱物たるけい石であることを知つていたことを認めるにたりる証拠はなく、また、前記認定の事実に照らすと、鉱業権侵害について建設局に過失があつたということはできないし、他に右過失を認めるにたりる証拠はない。すなわち、右鉱業権侵害について建設局に故意過失はない。

以上のような事実関係において、被告をして、本件鉱業権の設定登録により取得することになつた前記利得を保有させることは、不当利得制度における公平の観念に照らし相当でなく、右利得は結局法律上の原因なくして他人の損失に基いてえた利得ということができる。

四、被告は、不法原因給付の主張をするけれども、建設局の本件けい石採掘には、前記のとおり故意過失がないから不法行為は成立せず、また、鉱業法一九一条にも該当しない。したがつて、この点に関する被告の主張は失当である。

五、してみると、被告は原告に対し、前記利得を返還すべき義務があり、前記認定の事実に照らすと、被告は悪意の受益者といわなければならないから、被告の前記利得額である金一、七二九万七三四〇円および右金員につき、未使用けい石の土地からの分離により右けい石の所有権が被告に帰し被告が利得したことが明らかな昭和三八年四月一日から完済まで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由がある。

六、しかしてまた、原告は、建設局が本件砕石プラントに占有保管中の未使用けい石について留置権を有することになるから、右未使用けい石の保管費用は、必要費として所有者である被告に対し、その償還を請求できるというべきところ、〈証拠省略〉によれば、右費用は、別紙目録(二)保管費用額欄記載のとおりであり、右費用は、それぞれ同目録の支払年月日欄記載の日に支払われたことが認められるから、右保管費用の請求および右費用の各支払日の翌日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由がある。

七、よつて、原告の本訴請求をすべて認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石川良雄 田辺康次 佐々木寅男)

別紙目録(一)(二)〈省略〉

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